從來, ダロウについては「推量の助動詞」という見方が支配的であったが, (1)「何て頭のいい奴だろう!」佐久間が話を聞いてため息をついた.(セ-ラ-服,178) ダロウには上例のように推量とは解せない用法もあり, ダロウを無條件·無前提で推量形式であるとする從來の議論の不充分さが示唆される. 本稿ではこのような現狀を踏まえて, ダロウ文を對象とし, 文の表現類型や聞き手指向性の有無といった談話條件(discourse condition)の觀点から, その主な用法が以下のように,「推量」「確認要求」「疑い」「感嘆」の四つに分類されることを提案し, 諸用法の統一的且つ有機的な說明を與えようとするものである. ·推量 (2)「なぞですわ. 暴力かもしれないし, 家のために犧牲になったのかもしれないし, おそらくあたしは兩方だろうと思うの」(二人, 94) ·確認要求 (3)「そばに, 誰かいるのね」「ええ」「奧さんでしょ」「ええ」(愛人物語, 27) ·疑い (4)「だれが殺したのだろうか」. 犯人はつかまったのだろうか. 死刑になったのだろうか. なんのために, ルリ子のような小ちゃな子供を殺したのだろうか. どんな顔をしたやつなのだろうか」(氷点上, 318) ·感嘆 (5)「なんて氣もちのいい方なんでしょう. 私も, あの方みたいにうまれてきたかったわ. つまんない, 私」(若い人, 196)