『鍵』に登場する夫は老年期に入って段段衰弱してゆく自分の肉體に不安を感じる初老の男性である。妻も夫が肉體的な衰弱で自分の性的な欲望に十分に應じられないことに不滿を感じる中年女性である。結局、ニ人ともく老い>という避けられない現實を受け入れなければいけない狀況に置かれているわけである。從って本論文の目的は夫婦間の葛藤ガく老い>から始まったことに焦點を合わせて、老年を迎えた夫をはじめとする妻と娘と弟子がく老い>をどういう風に受容していくかについて考察するとともに初老の男性が執着する<性>が彼の人生でと"ういう意味を持っているかを明らかにすることである。 『鍵』は夫婦の日記という構造で成り立ち、夫婦は<日記>が相手にみせなぃ秘密の世界という點を利用して互いの眞實を相手に傳えている。いわゆる『鍵』で<日記>は自分自身の世界を人にみせなぃという本來の目的を外し相手に自分の意志を傳えるために選ばれた手段として登場している。 夫は社會的に大學敎授という安定している地位にいるが、老年期に入って肉體·精神の兩面ともに萎縮してしまう。夫はこのような狀況を乘り越えるために自分の性生活に全てのエネルギ-を注ぐが、こういうことが繰り返す度に夫は家庭で疎外されるばかりである。妻は老年期に入った夫を受け入れることを拒否するだけではなく<酒>を利用して新しぃ欲望の對象として夫の弟子である木村を自分の幻像の中に呼び入れることに至る。娘敏自も性的な欲望にあまりにも執着する父を冷たい視線で見つめつつ、結局は父の家を去る。木村も夫の性的な刺戟劑に止まらず、夫の位置を奪うことになる。いわば初老の夫は外部から絶えず挑發される中で<性>を通じて自分の位置を確保するために命をかけた鬪爭を展開する。 妻郁子は夫婦關係で女性は受動的であるべきという考え方を持つ女性であったが、木村との性關係を通じて夫との性關係で積極的な女性に變貌する。妻はこれ以上夫の統制の下で存在するものではなく、自分の欲望を自ら滿足させる獨立的な女性になった。妻が未婦の日記を<死んだ人と私の性鬪爭>と表現したように彼女自身も夫との性生活を鬪爭で把握したことが分かる。すなわち妻も最初から夫との性生活を鬪爭として認識したので、夫が死ぬまで挑發するしかなかった。結局初老の夫に<性>は欲望を滿たすための行爲ではなく、家庭で疎外されている自分の存在を取り태すために選ばれた方法であった。