古今和歌六帖(以下「六帖」)は1200余首の万葉歌を所收している。そのおびただしい人集歌のため、近世の契沖による本格的な硏究以來、最近まで硏究が續けられある程度まとまった成果をあげている。にもかかわらず、從來の硏究で使用してきたテキストは主に、寬文年間の版本系の本文であった。本稿は今までテキストとして使ってきた版本系の本文は果たして信用できるものか、ということから出發する。方法として六帖の「寫本系」の本文と「版本系」の本文をいちいち句ごとに比較き行れい、さらにそれを万葉集の諸本との比較を行った。 その結果、寫本系より版本系のほぅが一致度の上から寫本系の本文より3倍以上の一致度を示してして、善本のように考えられるが實際版本系の本文には近世の万葉集の新訓が混入しており、信用度という面では寫本系の本文がはるかに高いことが判明した。これからの六帖の硏究においては、特に万葉集關連硏究では、必ず寫本系の本文を底本とすべきことを本文批判の側面から論じた。