賀茂祭(葵祭)は、『源氏物語』の中で第一部の六條御息所と葵上の車爭い、第二部の柏木と女三の宮ㅁの密通、第三部の薰と浮舟の出會いなど、その後の物語の方向を決定する分岐点のような場面を提供する場であり、物語の展開上、重要な役割を擔っている。その中でも特に、第一部の六條御息所と葵上の車爭いは賀茂祭での出來事であり、この事件に端を發して御息所の物の怪が跳梁し、正妻葵上の逝去、御息所の伊勢下向などと物語が進展することになる。その結果としての葵の上の死は、源氏にとって、左大臣家の後見を失うことを意味するが、紫上にとっては、源氏の實質的な正妻として物語の中心に躍り出ることになるきっかけでもある。注意すべきは、賀茂祭が六條御息所の物の怪を出現させ、物語を大きく展開させていく物語必須の條件として機能するということである。それは、物の怪が賀茂祭という、佛敎が入り入めない時を狙って跋扈するからであるが、御息所は齋宮の母として、수り神である天照大神の相貌を帶びた人物造型がなされているから、賀茂神の際に賀茂神と伊勢神との葛藤が顯になったとも考えられる。このように賀茂祭は、物語を動かす方法として機能し、人物造型や物語展開に大きな影響を及ぼしているのである。