「モダンガ-ル」とは、關東大震災のあと、斷髮や洋裝をした女性の出現を指す用語である。いままでの先行硏究では、その「モダンガ-ル」をその時期に花ひらく都市文化を象徵する存在として捉えてきた。しかし當時の言說を探ってみると、「モダンガ-ル」の都市風俗としての特徵よりも、むしろ、都市/農村、日本/西洋、家父長制/女性の主體性などのさまざまな葛藤が噴出される議論の<場>を形成したことがより注目されるべきである。それも「モダンガ-ル」はそれを觀察する文化人の<知>の樺組を寫し出すと同時に、さまざまな矛盾をさらけ出すことで<アポリア>として機能した。その「モダンガ-ル」をめぐる議論は實體としての存在に先立ち、表象のレベルで議論されるが、それを可能にしたのが婦人雜誌や映畵などの新しいメディアの介入だった。それを要約的に言うならば、「モダンガ-ル」の表象は大衆消費社會の形成のなかで認識され始めた、都市型の、無定形な大衆の登場を目擊した文化解釋者たちが、婦人雜誌やアメリカの映畵といった、これも新しい文化媒體として注目され始めたメディアを經由し、そのメディアに表れた女性像を大衆の解釋に當てはめて認識した結果として生じたものである。そのようにして〈實體〉をともなわない「モダンガ-ル」の表象が可能になり、また「モダンガ-ル」言說は往往にしてその「新しい」文化の是非を問う文化解釋者の間の〈文化論〉の論戰場として機能したのである。ここにおいてはじめて<發見>された大衆としての女性はやがて一九三○年代の<銃後の婦人>という戰時期の女性像に收斂されていくことになる。