文學が現實を再構成することによって人間の欲望と現實認識を表すとすれば、稚兒物語は僧侶側の性幻想の投影から成ったものであると言える。つまり、稚兒物語は寺院の社會的な機能及び位相の變化、獨自な敎義の確立など、中世の時代相を背景に僧侶の情念と宗敎的な敎義の接点を追求したものである。本稿では室町時代物語tこおける稚兒物語の代表作と言われる「秋夜長物語」と「あしびき」を對象に、物語に仕組まれた現實の再構成の樣相について考察した。すなわち「煩惱卽菩提」という敎義のもとで主に稚兒の神性(觀音の化現)による僧侶の救濟の有樣を說き明かした旣存の硏究とは異なって、本稿では僧侶の欲望と性幻想から作り上げられた稚兒のイメ―ジ及び父權の拘束と順應の樣相を探ってみた。中世時代、寺院における僧侶と稚兒の間柄は權力者である僧侶の稚兒に對する一方的な人格の支配ないし隷屬關係であったと言える。ところが物語では僧侶と稚兒の契を描くにあたって、二人の相思相愛と稚兒の積極的な純愛の行動を强調している。このような現實の再構成によって物語は二人の愛を情緖の交流、あるいは至極の愛に位置づける。一方、稚兒と僧侶のそれぞれの父親は遺言ないし直接の介入をもって息子の運命を拘束し、その結果、物語は父權への順應と家の繼承として締めくくられる。