本稿は江戶初期大藏流の狂言師の大藏虎明によって書かれた『大藏虎明本狂言集』を中心にして、そこに出ている順接條件表現についての考察である。文語資料に記錄されている文法事項は、口頭資料に比べて、規範性が强く、定型化した表現として現れるという限界性を持っている。從って、本稿では旣存の文語資料の限界性を認識し、定型化した條件表現ではなく、實際の生活で使われている口語の中の條件表現の獨特な特徵を把握することをその目的とした。また、口語の中での具體的な順接條件表現の特徵を考察するため、同時代の口語資料である『天草版平家物語』との比較を通して順接條件表現の諸樣相を比較及び分析してみた。その結果、『大藏虎明本狂言集』における順接條件表現の場合、その臺本の時期的な性格上、それぞれ近代語に分化、發展していく過渡期的な諸樣相が現れていた。特に、恒常條件の場合にそのような傾向が目立ち、古代語から近代語へ移行していく過渡期的な性格が强く現れていると言える。