反に詩風の變化を示す表示板があったとしたならば、 江戶後期は、 日本人らしい感性や發想を重んずるという方向に最も針が大きく振れた時期である。 江戶後期にいたって、 まとまった數の詩を殘した女性詩人が生まれるようになったのは、 このことと無綠ではない。江戶時代は封建社會であったし、 朱子學にもとづく倫理、 道德が支配的であった。 しかし、 對等に男性と詩文をやりとりし、 自分の思いを詩に託することのできた女性たちが存在したことは、 かなり開かれたところがあったようにも見える。 ただし、 細香にとっての父、 紅蘭にとっての夫がそうであったように、 彼女らの活動は、 それを許し、 かつsupportする男性の存在があって初めて可能であったというのも、 また、 動かしえない事實なのである。