昔から龍は人間と密接な關係を持っている動物として認識され, 說話の中には龍に對する多樣なイメ一ジが反映されている。想像の動物である龍が人間世界ではいかなるイメ一ジで投影されているのかを調べてみることにより, 先人の意識世界の一面が窺えると思われる。 『今昔物語集』の中で考察の對象になる龍の登場する說話を調べてみると話にのぼるが, 考察に當たってはこれらを天竺, 震旦, 本朝に分けて進めにみた。全體的には龍神, 轉生, 變身, 人獸婚姻, 報恩, 復讐, 降雨などのイメ一ジをもった動物として現れている。神としてのイメ一ジを見ると, 本朝部でのように雨を祈願する神のイメ一ジが一般的であるが, 天竺部の佛敎說話の中では釋尊が生まれる時龍神に祈って誕生したという異常誕生談と, 危機に陷った人が救いを求める神としてのイメ一ジが特異である。もう一つ, 龍は轉生と變身の動物としても描かれているが, 人間が前世の惡業により龍に轉生したことは, 六道輪廻に基づきながら, 龍と蛇を同流の畜生として考えた認識が背景になっていると思われる。また龍が人間に變身する時, 男性への變身と女性への變身の兩方が見られることも確認される。龍が人間と深い關係があり, 親密な存在であったことを表してくれるのが人獸婚姻の要素であるが, 變身のイメ一ジで旣述したように, 人間と結合する時龍は男性と女性の兩性の役を擔っている。他にも報恩の動物としてのイメ一ジもよく見られるが, 雨を降らすとか如意寶珠, 黃金の餠のような神秘な財物を通して恩返しをする姿が現れている。とりわけ, 本朝部の佛敎說話に現れている法華經靈驗談を借りた龍海寺の綠起談や, 觀音菩薩靈嚴談と龍との關連性は, 天竺部とか震旦部では見られない特徵として注目に値する言えよう。