本稿では明治前後から現代まで翻訳されてきた「アメリカ独立宣言」のうち、9種の訳文の訳語を対象に、以下を明らかにした。
まず、語種構成の割合をみると、江戸末·明治初期の訳文、特に福沢(1866)及び中村(1873)の場合、当時の漢語流行の流れの中でも漢語より和語の方をもっと多く使っていることが分かった。
次に、最初の近代的な英和対訳辞典である『英和対訳袖珍辞書』(1862)と江戸末·明治初中期の訳文との訳語の一致率を調べてみたところ、この辞典の刊行時期に近い福沢(1866)・中村(1873)より高橋(1895)との一致率が二倍近く高かった。福沢(1866)の場合は文章が比較的短く、意訳のところが多いので、この辞典との一致する訳語が少ないのは当然であろう。高橋(1895)と一致する訳語の大部分は漢語であり、これは高橋(1895)の漢語の使用率が高いのと関係があるだろう。