本稿の目的は、無声阻害音が連続する際に起こる緊張音化という音韻現象を統率音韻論の理論にもとづいて分析することである。特に、開音節言語とされる日本語において子音の連続が顕著にみられる漢字語 (複数の漢字で構成される漢字熟語) に注目し、漢字と漢字の結合部分に無声阻害音が表れる場合に起こる音韻現象が韓国語と日本語でそれぞれどのような様相を見せるかを分析する。
無声阻害音が連続する場合に起こる音韻現象として韓国語の硬音化と日本語の促音化がある。後の子音が緊張音になる原理としては、オンセット間の統率関係を成立させるため統率する側の元素Hにヘッドの資格を与えることで説明できる。だたし、韓国語では無声阻害音が連続するすべての状況において硬音化が起こるのに対し、日本語では軟口蓋破裂音[k]に無声阻害音が後続する場合促音化は起こらない。本稿ではこの現象を解説するにあたり二つの可能性を提示した。ひとつは促音化のもうひとつの特徴である調音位置の同化が起こらないことによるとする論議であり、もうひとつはオンセット間で統率関係が成立しないことによるとするものである。この研究では[k]の後で促音化が起こらない理由について後者のほうに妥当性があると結論づける。
(韓国外国語大学/日本、神奈川県立外語短期大学)